遺言書だけではない?!意外と知らない相続対策「民事信託」とは?

ライター 中野 浩明
カテゴリ 調査団プラス
掲載日 2016/02/12 00:00
こんにちは。
堺行政書士事務所の中野です。

みなさんは「民事信託」というものをお聞きしたことがありますでしょうか?
信託と聞くと、おそらくほとんどの人が投資信託などのリスクをともなう取引を想像されるのでは、と思います。

しかし私が今からお伝えするのは、それらとは全く質の異なるものです。
さらに言えば、おそらくこれからさらに超高齢化社会に入っていく時代には遺言書などとともに、いや、もしかしたら遺言書などに変わって必要不可欠となってくる制度となるかもしれません。

実はこの制度は平成18年の信託法改正によって生れたといっても過言ではない制度です。
なので、ほぼ10年ほどしかたっていない、比較的新しい制度とも言えます。
そういう意味では世間一般に浸透していないのは当然でしょう。


少し前置きが長くなりましが、そのあまり知られていない民事信託、もちろん奥が深く、詳しく話すとキリがありませんが、どういったものかはおわかりいただけるようにお話いたします。

❝そもそも信託とは❞

日本ではその信託の歴史の特殊性のため、本来の信託のイメージはあまり知られていません。
そもそも信託と一言で言っても、日本でできた制度ではないだけでなく、ヨーロッパにおいてとても長い歴史を持っています。

信託の誕生については諸説ありますが、有名なものとしては十字軍の兵士による信託があります。

これは、兵士が出征している間に故郷に残された家族のために、信頼のおける友人に自分の財産を託し、家族が困らないように財産を管理してもらうという約束のことでした。
文字通り、「信」じて「託」すわけです。

ところが日本においては、金融商品を取り扱う企業などへ自分の財産を託すことによってプロに運用してもらい、利益を得るという目的で信託という言葉が使われてきたのです。
同じ信じて託すにしても、目的が大きく違うのはおわかりいただけますよね?

そのため、信託「業」法という法律によって、そういった企業を取り締まる必要があったわけです。
いわゆる商事信託と呼ばれるものですが、こちらも文字通り。

ところが時代が変わり、高齢化社会が進み、それとともに遺言書などではまかないきれない個人の財産の管理を、本来の意味での信託を活用してなんとかしようという流れになって出てきたのが、新しい「信託法」です。
ここでは、商事信託と区別して、民事信託と呼ばれます。
つまり、取り締まる法律ではなく、社会のためプラスになる制度としての法律がでてきたと思っていただければわかりやすいのではないでしょうか。

それでは、信託が実際にどう有効なのか、具体的な例をあげてみていきましょう。

❝実際の信託❞

遺言書と信託は、その根元においては共通する部分があります。
それは、「財産」についてどうするかを決める、というところです。

遺言書では遺言を残すご本人の気持ちを「付言事項」として書き記すことはよく見受けられますが、これにはなんの法律的効力もなく、あくまで遺言書を書くときの副次的なものにすぎません。
やはりメインは遺産をどうするのか、という一言に尽きます。
そういう意味で信託は誰かに自分の財産を託すわけですから、自分の財産の処分という部分ではやはり遺言書と同じなのです。

では、遺言書とどこが違うのか。
逆に言えば、それを見れば信託の存在価値がよくわかるかと思います。

遺言書は残したご本人が亡くなってはじめてその効力を発します。
そして、遺言書通りに一度遺産が分配されると、そこでその役目は終わりです。

では例えば、「自分が亡くなったら遺産は全て息子に、息子が亡くなったときはその遺産分は全て孫に」という遺言書はどうでしょうか?
お察しのとおり、これはできません。
なぜなら先にも書いたとおり、一度効力を発すればそれで終わりだからです。
すでに相続が終わり、息子さんに遺産が引き継がれた段階で、もはやそれは息子さん自身の財産となるわけですから、それに対してどうするかを決めることはできません。

ところが信託の場合、そのしくみをうまくつくれば、「自分が亡くなったら息子に、息子が亡くなったら孫に、孫が亡くなったらひ孫に、ひ孫が亡くなったら玄孫に・・・」なんてことも可能なんです。
おどろくべきことには、まだ生れてもいない自分の子孫に残すことも可能だというところです。
当然ながら遺言書ではこんなことはできません。

このように遺言書ではカバーしきれない部分をカバーするという点が信託の強みです。
そしてこれはあくまで信託でできることの一例にすぎません。

他に信託でできることをざっと挙げると、

①自分の財産管理に不安があるため、家族に財産を託し、自分のために管理(さらに運用も)してもらいたい
②子供や孫に財産を生きている間に分けてあげたいが、子供や孫が大きくなるまでは管理は信用できる誰かにお願いしたい
③自分が亡くなった後のペットの飼育に係る費用を信用できる誰かに管理してほしい(飼育はプロのペットシッターと契約)
④賃貸不動産オーナーが生前から不動産を誰かに管理してもらい(賃料は自分へ)、亡くなった時点で子供や孫に相続させたい
⑤事業承継において、うまく株式や財産を分配しつつも、特定の誰かに会社を継がせたい

などといった希望を実現できる点です。

実は細かく言えば、財産の名義が一時的に託した人に移るといったことから、次のような副次的な利点もあります。
例えば、信託した段階で、、万が一本人が破産しても、信託財産は差し押さえ等から免れるといった、いわゆる破産倒産隔離機能。
また、たくさんの不動産を一括して託した人に管理してもらう名義集約機能。
他にも自分の財産の一部を託した人の名義にして、管理を完全に分けてしまう財産分離機能など。

遺言書と異なり、生前から亡くなった後のずっと後までの設定ができるという大きな利点とはまた別に、これらのシステム上の利点も数多くあるため、無限の可能性を秘めているわけです。

❝信託の危険性❞

さて、ここまで信託の良いところばかりをお伝えしてまいりましたが、もちろん問題が無いわけではありません。

まず冒頭でお話したとおり、この制度は日本ではとても歴史が浅いものです。
そして、無限の可能性があるということは、それだけ複雑だということ。

その2点から、大きな問題として、信託には専門家すら予測できない不足な事態が起こりうるということです。
そしてそれは、信託の大きな時間の幅のため、ずいぶん先の未来、その時になってからしかわからないということも合わせて言っておきます。

例えば、練りに練って信託のスキーム(しくみのことです)を作ったとしても、いざそのスキームが動き出したときに、思ってもみなかった問題が出てきて困ってしまうということがあります。
信託のスキームを作る時は、もちろん様々な事態を想定してしくみを作るわけですが、極端に言えば未来のことは誰もわからないので、完璧ということはあり得ないわけです。
何十年後の世の中がどう変わっているかもわかりませんし、法律そのものが改正されることだってありますから。

また、より完璧に近いスキームを目指すため、どうしても時間と費用がかかってしまいます。
制度が定着し、たくさんの事例が出てくる頃になれば、サンプルもそれなりに揃っては来ることでしょう。
しかしそれまでは、個人個人のケースに合わせてオーダーメイドするしか方法が無く、例えば既製品を買うような手軽さはなく、そこが時間と費用の大きさにつながってしまう、といえばわかっていただけるかと思います。

しかし、信託を必要としている人が世に多くいらっしゃるのも実情です。
ですので、われわれのような民事信託の専門を目指す者は、それをわかっているからこそ、アイデアを練り、研究を重ね、様々な業種、専門家の人たちとの意見交換や協議を繰り返すことによって、よりよい信託を作るよう日々研鑽しております。

もし、今後、自分の財産をどうしようとお悩みならば、一度専門家に相談し、二人三脚でよい信託を作る、という意識で進めていくのも解決の一つの方法ではないでしょうか?

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この記事のライターをご紹介

  • 中野 浩明 ( ナカノ ヒロアキ ) 堺行政書士事務所
  • 堺市を拠点に書類作成、申請手続き代行などの業務を行う街の法律家。業務に並行して遺言書の普及に努めている。 その一方で、長く油絵制作に携わっている経験をもとに、依頼を受けて似顔絵・肖像画の制作などに取り組む。


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