引越しと段ボール
■引越しに使う段ボールの数は人それぞれ
早いもので、連載も今回で10回目を迎えました。
先日、母が住むアパートへ立ち寄ったのですが、引越しから約1ヶ月を経過して、ようやく段ボール箱を50箱ほど空けたと話していました。
それでもけっこうな数に感じますが、まだ残り50箱以上あるとのこと。
合計100箱以上の荷物を持って引越したようです。
先日の引越しコラム(http://e-hikkoshi.jp/explore/archive/entry-166.php)に書かれていた目安によると、大人一人あたり約20箱とのことでした。
もともと4人で暮らしていた家だったこともあるでしょうし、母はたくさんの本を持っていることもあるのでしょうが、単身者の引越しとしてはかなり荷物が多かったようです。
もちろん個人差が大きく出る部分だとは思いますが…。
■段ボールという素材
ところで、段ボール、ダンボールというのはどういった素材なのでしょうか。
今さらながら、調べてみました。
英語では、「corrugated cardboard」と言うそうで、辞書には「波状に成形した中心 (なかしん) 紙の片面または両面に厚紙をはり合わせた板紙。包装の箱にする。」とあります。
断面を見るとわかるように、段ボールは波型の紙を用いた多層構造とすることで強度を持たせた素材と言えるかと思います。
ちなみに、corrugate(コルゲート)は「波型をつける、しわをつける」の意で、土木・建築分野では波型に成形された金属板の呼称として用いられています。
■波型の素材コルゲート
さて、今回も引越しの話がいつの間にか建築の話へつながってきたのですが、このコルゲートと呼ばれる材料はもともと土木分野で利用されてきたものです。
軽量で強度や耐久性に優れ、運搬・組立が容易だという長所があります。
波型を重ね合わせてつなげられるため、大きなサイズや長い距離の工作物を実現できます。
水路や骨材ビン・水槽・護岸セルなど幅広い用途に用いられています。
このコルゲートという材料で造られた建築の事例を御紹介します。
科学者、設備設計家、プラントエンジニアという肩書きをもつ川合健二氏(1913-1996)が1965年に自邸「川合健二邸」で世界初めてコルゲートを住宅に用いたそうです。
この住宅は基礎を持たないため、砂利の上に置かれているだけで地面に固定されていません。
川合氏は「寝とる建築なら倒れる心配はない。」と語っておられたそうです。
また、その川合氏を師と仰いだ建築家の石山修武氏が1975年に「幻庵」という建築史に残る名作を完成させておられます。
これらの2つの建築は竣工後すでに長い年月が経過していますが、その新鮮さは現在でも失われていないと聞きますので、機会があれば是非とも見てみたい建築です。
近年では、建築家の遠藤秀平氏がコルゲートを用いて、上記の2作の重厚さとは対照的な軽やかな動きのある建築を数多く手がけておられます。
■ユニークな段ボールの使い方
完全にコルゲートの話になってしまいましたが、段ボールに話を戻します。
段ボールは、その構造により強度があるからこそ、引越しや配送、保管といった用途に用いられているのですが、価格的に手ごろなこともあり、上記の用途以外にも家具の材料としても使われています。
世界的な建築家であるフランク・O・ゲーリーがデザインしたWiggle Side Chair(ウィグル・サイド・チェアー)は、あえて段ボールの断面を見せることで素材が強調されています。
また、ある大学の建築系の授業では、1回生に「段ボールで椅子をつくる」という課題に取り組ませるという話を聞いたことがあります。
段ボールは強度があるといっても紙ですから、うまく設計しなければ,人が座ると壊れてしまいます。
デザインや構造、人間工学など、建築に必要なことを初学者が理解するために、身近な材料でありながら奥が深いところが適しているのだと思われます。
最後に、ユニークな用途で段ボールが利用されている例をもう一つご紹介します。
「引越しAじぇんと」を運営する株式会社メガメディアコミュニケーションズに所属する「箱男子」です。
箱男子は段ボール箱を頭にかぶり、良い商品、良いサービス、良いお店、良い企業、公正・公平なサービスを世に広めようと活動しているのだそうで、箱には企業のロゴマークなどのステッカーが貼られています。
箱男子については機会があれば改めて語らせていただくとしまして、今回はここまで。
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ダンボール
この記事のライターをご紹介
- 貴志 泰正 ( キシ タイセイ ) 一級建築士
- 戸建て住宅、店舗併用住宅、保育園、幼稚園を中心に店舗、家具、事務所、集合住宅、公民館の設計を手掛ける。
既存の概念にとらわれず、クライアントと共に創り上げる住宅は、オリジナリティーが高いとの評判がある。
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