渡り鳥の引越しから考える日本の住まい
■引越す動物「渡り鳥」
連載も今回で11回目を迎え、季節も11月となりました。
朝晩が冷え込む季節になりまして、プレハブ倉庫をリノベーションした断熱されていない事務所で仕事をしている私は、今年も近づいてきた厳しい冬の訪れを恐ろしく感じているところです。
(もちろんご依頼を受けた建築はしっかり断熱した設計をしますので、ご安心を。)
いっそのこと、寒い時期だけ暖かい事務所に引越せたらいいなあ、などと考えていましたら、「渡り鳥」がまさにそれを実践していることに気づきました。
「渡り鳥」と一口に言いましても、日本を基準として考えてみますと、次の3つに分類されるそうです。
夏を日本で過ごし、越冬のために南国へ渡っていく「夏鳥」、冬を日本で過ごすために北の国から渡ってくる「冬鳥」、夏は北国で、冬はより南国で過ごすため、移動の途中に日本を通過していく「旅鳥」です。
もちろん国境という意識のない鳥たちにとっては、それぞれに繁殖や越冬のために最適な住環境を求めて移動するという同じ振る舞いをしているだけなのでしょうが…。
インターネットの普及により、いつでもどこでも仕事ができる時代になってきていますので、もしかしたら冬には暖かい地域で仕事をする「渡り人」が今後増えてくるかもしれません。
■住まいは夏をむねとすべし!?
とは言いつつ、現実的には季節によって異なる場所で仕事をできるといった恵まれた立場の方は少ないですから、建築を設計する立場としては1年を通して過ごしやすい環境をつくることが重要になってきます。
そのためには、どの季節を中心に考えればいいいいのでしょうか?
有名な一節の引用になりますが、吉田兼好は徒然草のなかで、「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。」と書いています。
現代の言葉に直せば、「住まいの作り方は、夏のことを考えて作るのがよい。冬はどのような場所にでも住むことができる。暑いときに住み心地の悪い家は、我慢できない。」といったところでしょうか。
冬は厚着をしたり、火を焚いたりすることで暖まる方法があるので、夏を中心に考えるべきだ、そのような主張だと思われます。
確かに、現代のようにエアコンや扇風機のない時代ですから、夏に涼をとる方法は限られていたでしょう。
光を遮ったり、風を通したりと、夏に涼しく過ごせるような設計が現代以上に望まれていたのかもしれません。
ただ、個人的に少し疑問に思う部分もあります。
冷房もさることながら、冬の暖房も現代に比べて格段に難しかったのではなかろうかと…。
いくら寒いからといって、木造の住まいのなかで火を焚き続けながら眠るというのは、技術面でも安全面でも難しかったのではと想像してしまいます。
この「夏をむねとすべし。」に関して、知人の建築家さんから面白い持論をお聞きしたことがあります。
いわく、「冬より夏が大変だということは、温暖化、温暖化と言われているが、吉田兼好の時代の方が現代より気温が高かったのではないか」と。
私にはその真偽は知るべくもありませんが、非常に興味深い指摘であることは間違いありません。
■パッシブデザイン
さて、建築の設計手法として、「パッシブデザイン」と呼ばれるものがあります。
パッシブはアクティブの対義語で、パッシブデザインは特別な機械装置を使わずに、建物の構造や材料などの工夫によって熱や空気の流れを制御し、快適な室内環境をつくりだす手法のことです。
先日、事務所のスタッフが長野県の軽井沢にある建築家吉村順三氏の設計による「脇田山荘」を見学する機会に恵まれたそうなのですが、快適な住環境をつくりだすための小さな工夫の集積に驚いたと感想を聞かせてくれました。
藤井厚二氏の設計による「聴竹居」という戦前の事例から、現代に至るまでの環境に配慮された住宅の事例を集め、視覚的な解説を加えた『環境のイエ』という書籍があり大変興味深いのですが、その一例として「脇田山荘」も取り上げられています。
パッシブデザインに優れた建築は、冷暖房によるエネルギー負荷を少なく済ませることが可能になります。
地球環境の悪化が叫ばれる現代において、個々の家、個々の設計者ができることは限られているかもしれませんが、その積み重ねがとてつもなく大きなものになると考えて、設計に取り組んでいきたいと考えています。
今回は、ここまで。
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この記事のライターをご紹介
- 貴志 泰正 ( キシ タイセイ ) 一級建築士
- 戸建て住宅、店舗併用住宅、保育園、幼稚園を中心に店舗、家具、事務所、集合住宅、公民館の設計を手掛ける。
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