尊厳死宣言書

ライター 中野 浩明
カテゴリ 引越しコラム
掲載日 2015/08/20 00:00
こんにちは。
堺行政書士事務所の中野です。

みなさんは「尊厳死宣言書」というものをお聞きした事はありますでしょうか?
当事務所は相続・遺言を主に扱っているのですが、その関係で老後の手続きなどに触れることがよくあります。

最近では終活なんて言葉も聞きますよね。
私個人は終わりの活動なんていうと、あまりいい気がしないので、実は言葉としては好きになれません。

が、人はいずれ直面する現実として、普段から考えることはとても大切なことだと思います。

そういった話の中で、この尊厳死宣言書はとても重要な役割を果たします。
そもそも尊厳死宣言書とはいったいなんなのか、まずはそれからご説明しましょう。

尊厳死宣言書とは?

尊厳死宣言書なんて難しい言葉を使っているので分かりにくいかもしれません。

簡単に言ってしまうなら、「自分がもう助かる見込みのない病状になった時、苦しむような延命治療はやめてください」とお願いする文書のことです。

お年を召した方だけでなく、若い人でもなんらかの病にかかって、余命いくばくもないといった状態になることがあります。
そんなとき、意識がはっきりしていて、「苦しみたくないので、延命治療はやめてください」と言うことができれば何も問題ありません。

しかし、そうではない状態だったら・・・。

病気やけがの状態によっては、意識がはっきりしていなかったり、たとえはっきりしていても、上手く本心を伝えられない場合だってあります。
この場合、ご家族みなさんがそろって強く希望しない場合は、お医者さんはかならず延命を行う方向に動きます。その延命治療がとんでもなく苦痛を伴うものだとしても。
なぜなら、場合によっては延命治療の中止はお医者さんが殺人や自殺幇助罪に問われてしまう可能性があるからです。

例えば家族の中に一人でも延命治療をしてほしいという人がいたら、お医者さんもほぼ間違いなくそちらに流れます。誰だって殺人罪に問われたくはないですからね。

そこで尊厳死宣言書の出番と言うわけです。

尊厳死宣言書は公正証書で

一般的には、公正証書によって作成されることが多いです。

遺言書のように法律で規定されているものでもなく、今をもって尊厳死や安楽死がきちんと法制化はされていません。ただ、自分の意志として、尊厳死を望む人はそれが本心であるなら、尊重されるべきという見方があります。

そこで、公正証書という証拠能力の高い文書で最後の自分の意思を残すという方法がとられてきたという背景があります。
ここでこの公正証書というのをざっくりと説明しておきます。

有名なのは、公正証書による遺言ですね。ご存知な方も多いかもしれませんが、遺言書はいつでも簡単に書くことができます。書くだけならですが。

しかし、有効な遺言書を、と考えれば、公正証書で作ることをお勧めします。
なぜなら、法的な後ろ盾があるからです。
法律にも明るい公証人が公文書として作成し、また原本が公証役場にも保管されるという、とても信頼のおける文書になるということですね。

では尊厳死を宣言する場合はどうでしょう。

残念ながら尊厳死自体が法制化されていない分、遺言書に比べると例え公文書とはいっても少し弱い部分があります。実際に日本公証人連合会から日本医師会に、「公正証書によって尊厳死を宣言した場合、それに準じるように」といった旨の打診が過去何度かあったのですが。

結局現場の判断が優先であるという医師会からの反発があり、公正証書によっても100%尊厳死が行われることはない、というのが現実です。

尊厳死宣言書は有効か

それでは尊厳死宣言書を公正証書で作ってもあまり意味が無いのでしょうか。
それについてはこんな数字があります。

尊厳死宣言書がある場合のお医者さんの尊厳死許容率(延命治療をしない率と思ってください)はほぼ毎年96%あたりを推移しているようです。これはつまり必ず尊厳死を受け入れてもらえるというわけではないものの、ほぼ100%に近い状態だということ。
本人の意思が分からない、もしくはご家族の一人でも延命治療を希望している場合は間違いなくお医者さんは延命治療をします。

ということを考えると、やはり尊厳死宣言書の存在の大きさが伺えます。

尊厳死そのものの賛否

そもそものお話ですが、尊厳死や安楽死に対しては賛否両論があります。

これは当然のお話で、理由も宗教的なものから、少しでも望みがあるならといったような心情的なものまでさまざま。もちろんどれが正解とは言えません。

でも単純に本人が苦しみたくないというなら、それは他人がどうこういうわけではなく、その意思は尊重されるべきではないでしょうか。

明らかに治る見込みがなく(もちろん絶対に治らないとは言い切れませんが)、延命治療が苦痛を伴う場合で、死期も近付いている。でも自分は苦しみたくない。その気持ちは責められるべきではないと思うのです。

尊厳死宣言書では、ただ延命治療をやめてほしいというだけではなく、苦痛を和らげるための処置を希望することもできます。例えば延命を第一に考えれば使用できない薬なども、苦痛を和らげることを第一に考えて使用することができるようになります。

このように、尊厳死を希望する人の心によりそって作られる尊厳死宣言書は、とても価値のあるものだと言えます。
人間はいついかなる状況になるか、誰にもわかりません。
万が一、そのような状況になった時のために、尊厳死宣言書を作っておくことを、少し考えてみてはいかがでしょうか?

必要なら早めに作っておくのがいいかもしれません。

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行政書士 法律



この記事のライターをご紹介

  • 中野 浩明 ( ナカノ ヒロアキ ) 堺行政書士事務所
  • 堺市を拠点に書類作成、申請手続き代行などの業務を行う街の法律家。業務に並行して遺言書の普及に努めている。 その一方で、長く油絵制作に携わっている経験をもとに、依頼を受けて似顔絵・肖像画の制作などに取り組む。


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