「屋台骨」の引越し (前編)

ライター 貴志 泰正
カテゴリ 引越しコラム
連載 「建築」に関わる視点から「引越し」について
掲載日 2016/04/20 00:00

■ついに居場所が見つかる!!

今回は完全に私事で恐縮なのですが、自身でデザインした魚の骨の形をした屋台(立ち飲みカウンター)の「屋台骨」に起きた最近の出来事について書かせてください。
「屋台骨」については、ちょうど一年前の昨年4月のコラムでもご紹介させていただいておりましたが、お花見の季節とゴールデンウィークに利用して以来、長らく出番がありませんでした。
何度かイベントで利用できないかとのご相談はいただいたのですが、全長4メートルとスペースを必要とすることもあってか、うまく実現には至りませんでした。
というわけで、「屋台骨」は来るべき出番に備え、『ロクロクソウ』(66番倉庫)と名づけたコンテナ倉庫で長い冬眠生活を送っていたのでした。
とはいえ、ただただ眠っていたわけではありません。
実物を披露する機会こそありませんでしたが、昨年創設された『ウッドデザイン賞』に応募しまして、無事審査を通過し、栄えある第1回の入選作に名を連ねることができました。
そして、有難いことに今年に入ってご縁がつながりまして、晴れて「引越し」を行うことになったのでした。

■「屋台骨」の理想の居場所

「屋台骨」のデザインコンセプトはずばり、以下のとおりです。
-世間一般の飲食に使われる屋台の席は横並びで、そこで生まれる会話はどうしても同じグループの範囲でおさまりがちです。「屋台骨」は魚の骨の隙間が生み出す横並びではない居場所が異なるグループとの交流を促進する楽しいヤタイです。-
つまり、不特定多数の方に飲食のための家具(装置)として用いてもらうことで、自然発生的に見知らぬ人同士の交流が生まれることを願っていました。
このたび設置のオファーをいただいた場所はまさに、そのような場所でした。
大阪はミナミの繁華街のど真ん中、道頓堀にある『角座広場』です!!
ご存じ松竹芸能さんの劇場『角座』に隣接する広場でして、角座横丁と名づけられた屋台が並び、飲食用のテーブルや椅子が置かれています。
生まれ育った大阪で最も理想的と思われる場所に置いていただけることになり、本当に喜ばしいかぎりです。
このような機会を作ってくださった株式会社くれおーるの加西幸浩専務さまをはじめ、設置にあたりご理解・ご協力をいただきました皆様に心より感謝を申し上げます。
有難うございました。

■「引越し」のための改良

2月上旬に嬉しいオファーをいただいたのですが、同時に不特定多数の方が利用する上での課題、問題点についてもご指摘いただきました。
『骨』にこだわってデザインしたばかりに、天板の形状が尖っていたのです。
怪我をする人が出れば、せっかくの楽しい場所が台無しになってしまいます。
『角』座広場で安全にご利用いただけるよう、『角』のない丸みのある形状にデザインを改めることになりました。
また、これまでは材料の吉野杉の肌触りや香りを生かす意味であえて塗装していなかったのですが、長期にわたり屋外で利用されること、飲食物が置かれることを想定し、耐久性を向上させるためウレタン塗装を施すことにしました。
さらに、上記の欠点・弱点の改良とは別に、より便利に利用してもらうための改良として、屋台で販売されている飲み物のカップが倒れにくくなるよう、天板に穴をあけることも決まりました。
短時間の打合せのなかで、加西専務が改良すべきポイントを次々とピックアップされた様子に、飲食業界で成功されている方は違うなあと感銘を受けた次第です。
春休みに入って来場者も増えるであろう3月20日を『角座デビュー』の日と定め、改良を行うこととしました。
私の作業は、図面上で形状を決定するまでですが、それを実際に形にしてくださる方にとっては労力と日数のかかる仕事で、あまり余裕のあるスケジュールではありませんでした。
またとないチャンスとご理解いただき、材料の発注から製作、塗装工場への配送にいたるまで、一手に引き受けてくださった狩野新アトリエの狩野新さんには本当に頭が下がります。
狩野さんのご尽力のおかげで、3月20日に「屋台骨」は無事に角座広場に「引越し」をすることになるのですが、その様子は次回のコラムで書かせていただきます。
今回はここまで。

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この記事のライターをご紹介

  • 貴志 泰正 ( キシ タイセイ ) 一級建築士
  • 戸建て住宅、店舗併用住宅、保育園、幼稚園を中心に店舗、家具、事務所、集合住宅、公民館の設計を手掛ける。 既存の概念にとらわれず、クライアントと共に創り上げる住宅は、オリジナリティーが高いとの評判がある。

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